コラム:AIによって消えるのは「職業」ではなく、「作業」
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「AIで仕事がなくなるのか」という問いを、歴史の実例から考えます。AIが壊すのは、「思考のコスト」の続きにあたります。前回は「AIは思考のコストを壊す」という話でした。では、考える手間がかかるからこそ人がやっていた仕事は、これからどうなるのか。その続きです。
消えた仕事は、3つのパターンに分かれる
過去にコストが壊れたとき、そこにあった仕事がどうなったか。3つに分かれます。
① 職業ごと消えた
電話交換手は、1890年の電話交換業務の開始とともに生まれた職業です。かけ手と受け手を手作業でつなぐ仕事でした。自動交換機の普及とともに減り続け、1979年に役目を終えます。「つなぐ」という作業がそのまま機械に置き換わったので、職業が丸ごと消えました。
ただ、この話には続きがあります。「電話で人が応対する」という需要は消えず、企業の受付や電話代行、コールセンターという仕事が生まれました。番号を調べて教える役割として番号案内サービス「104」が登場しましたが、2026年3月末に終了しています。そして今、受け皿になったコールセンターは、音声AIへと置き換えが始まっています。
② 職業は残り、担当していた作業だけが消えた
駅の改札で切符を切る仕事は、駅員が担当する業務のひとつです。自動改札が広まってその担当はなくなりましたが、駅員という職業は残っています。消えたのは職業ではなく、業務の中の1工程でした。
③ 消えたあと、形を変えて戻ってきた
飛脚は近代郵便の登場でなくなりました。ですが「速く届けてほしい」という需要は消えず、いまはUber Eatsの配達員やAmazonの配送ドライバーがいます。消えたのは「人が走って運ぶ」というやり方であって、届ける仕事そのものではありませんでした。
3つに共通しているのは、なくなったのが手間がかかるから人がやっていた作業だけだという点です。つなぐ手間、切符を確かめる手間、速く運ぶ手間。機械が肩代わりできるようになった時点で、その作業は消えました。消えたのは作業であって、職業の名前ではありません。
置き換わるスピードは思ったより遅い
世界初の自動改札機が動き出したのは、1967年の阪急北千里駅だそうです。ところが、関東では複数社にまたがる乗車券の処理が壁になり、JR東日本が東京100km圏に本格導入したのは1990年、技術ができてから、現場が置き換わるまでに23年かかっています。技術の登場と、仕事が変わることの間には、それだけの距離があります。
ただしAIは、設備の入れ替えも工事も要りません。ソフトウェアなので、置き換わる速さは自動改札の比ではないはずです。23年かかった、という事実は「まだ大丈夫」の根拠にはなりません。
今回が違うのは、それがホワイトカラーに来ること
これまで壊れてきたのは、体外・肉体・情報のコストでした。だから影響が出たのは、運ぶ・作る・つなぐ・記録するといった、手を動かす仕事が中心です。
AIが壊しているのは思考のコストです。調べる、まとめる、書く、案を出す、比べて選ぶ。これまで「頭を使う仕事だから安全」と思われていた側に来ます。
とはいえ、ここでも消えるのは職業ではなく作業です。だから立てるべき問いは「自分の職業は残るか」ではありません。自分の仕事のどの作業が、考える手間がかかるからという理由で自分の手元にあるのかです。まず自分の仕事を作業単位に分解するところから始まります(言語化する・その仕事、AIに渡す前に3つに分ける)。
守るのではなく、移動する
前提として、AIと戦うという選択肢はありません。AIより多く考える、AIより多く働く、AIより多く作る。もはや人間には無理です。疲れず、24時間止まらず、同じ品質で出し続ける相手と量を競っても、勝てる道理がありません。
だから、正面から競うのではなく、AIと重ならない場所へ移ることが最善です。その場所は、大きく4つあるのではないか、と考えられます。
- AIと一緒に働く——AIが下書きを出す前提で、自分の仕事の組み立て方を変える
- AIを制御する——なにをAIに任せ、どこで人間が止めるかを設計・運用する(安全に任せる範囲の決め方・AIエージェント総論)
- AIを教える——AIの使い方や仕組みの作り方を、人に教える。研修講師、コンサルタント、社内の推進役がここに入ります(運用ルールを回す)
- AIが苦手なところを巻き取る——責任を負う、関係をつくる、現場の一次情報を取る(人間に残る仕事)
このうち4つ目、「AIが苦手なところ」は毎年狭まっていくことが予想できます。去年は無理だった作業が、今年はできるようになる。守りの軸だけに乗っていると、立っている足場が少しずつ削られていきます。
対して前の3つは、AIが強くなるほど価値が上がる構造です。制御する対象が優秀になるほど、それを設計できる人の価値は上がります。AIが仕事の前提になるほど、使い方を教えられる人も、AIと組んで成果を出せる人も、求められる場面が増えていきます。
価値があるのは、移動し続けられること
もうひとつ、大事なことがあります。「AIと重ならない場所」は、毎年変化していくでしょう。
だから重要なのは、どこに移るかより、移動し続けられるかです。一度いい場所を見つけて、そこに座り込んだ時点で、また追いつかれます。逃げ回るという意味ではありません。地形を読んで、有利な地点を選び直し続けるということです。
最後に、3つ置いていきます。
- 今の仕事のどの作業が、3年後にAIと重なっているか
- そのとき自分は、4つのうちどの軸に立っているか
- 「AIが苦手なところ」の巻き取りだけに頼っていないか
これは、私が自分に向けている問いでもあります。去年と同じ答えしか出てこないなら、たぶん動けていない。そう思っています。
AIがどこまで来るかは分かりません。分かるのは、いま自分がどこに立っているかだけです。このマップを書いているのも、その移動の途中だからです。
前編は AIが壊すのは、「思考のコスト」。会社として従業員の不安にどう向き合うかは 従業員の不安をほぐす、価値そのものがどこへ移るかは 誰でも作れる時代に、価値はどこへ移るか へ。