コラム:AIが壊すのは、「思考のコスト」

情報このコラムについて
蒸気機関は物理的パワーを、コンピュータは情報処理を、スマートフォンは情報へのアクセスを、それぞれのコストを壊してきました。AIが壊しているのは「思考のコスト」です。企画書のたたき台を出す、資料から論点を絞る、案に優先順位をつける——人間にしかできないとされてきた作業に、初めてテクノロジーが手をかけています。
テクノロジーは、いつも「コスト」を壊してきた
新しい技術が世の中を変えるとき、共通して起きていることが1つあります。それまで高くついていた何かのコストを劇的に下げることです。
- 蒸気機関と機械は、物理的パワーのコストを壊しました
- 電力と大量生産は、製造スピードのコストを壊しました
- コンピュータとITは、情報を処理・記録するコストを壊しました
- インターネットは、情報を流通させるコストを壊しました
- スマートフォンは、情報にアクセスするコストを壊しました
そして、AIが壊しているのは——思考のコストです。白紙の状態から企画書のたたき台を出す。20ページの資料を読んで論点を3つに絞る。複数の案を条件に照らして順番をつける。どれも「人間が頭を使うしかない」とされてきた工程で、ここに初めてテクノロジーが手をかけました。
並べてみると、壊してきた対象が体外 → 肉体 → 情報 → 思考と、だんだん人間の内側へ寄ってきているのが分かります。だからAIは、これまでの技術と少し違う手触りがある。怖くもあり、期待もされる。いちばん人間らしいと思っていた領域に、テクノロジーが入ってきたからです。
思考コストが下がると、何が起きるか
思考のコストが下がると、これまで規模がないと不可能だったことが、個人や小さな会社でもできるようになります。
一人でも、会社レベルのプロダクトを作れる。中小企業でも、大企業並みのマーケティングを展開できる。かつては人・モノ・金という資源を持つ者だけの特権だったものが、開放されていく。リソースの民主化です。
スマートフォンが「ネットへのアクセス」を万人に開いたのと、同じ構造です。AIはそれを、知的な作業のほぼ全域に対してやろうとしています。決裁が速く、小回りの利く中小企業ほど、この恩恵を先に受けられる——私がそう考える根拠も、ここにあります。
問うべきは「AIを学ぶか?」ではない
だから、「AIを学ぶべきか?」という問いは、少しずれています。答えはもう決まっているからです。
立てるべき問いは、「自分の仕事のどの部分が、思考コストで成り立っているか」です。
情報収集や文書作成、翻訳のような作業が多い仕事なら、影響は今すぐ来ます。信頼や感情、高度な判断が中心なら、影響はもっと長い目で効いてくる。そして「うちには関係ない」と思っている仕事も、競合がAIを使い始めた瞬間にリスクが表に出ます。
歴史を振り返れば、飛脚の仕事はなくなりました。コストが壊れた領域に留まり続けた仕事は、いつも厳しい立場に置かれてきました。 では、自分の仕事はどこへ移ればいいのか。次に生まれる仕事はなにか。飛脚は消えましたが、今ではUber EatsやAmazon配達員という仕事が生まれています。
続きは AIによって消えるのは「職業」ではなく、「作業」 で扱います。
「思考コストが下がった先に、人間に何が残るか」は、トップページのマップ本編の締めでも扱っています。組織として何から始めるかは 会社のAIに切り替える へ。